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2006-07-06

[] 22:15 2006-07-06 - debelabo.jp を含むブックマーク 2006-07-06 - debelabo.jp のブックマークコメント

「証券化社会

証券取引所の処理システムパンクした、なんていうかつてのニュースを小さい頃に聞いた人も、もしかしたらいるかもしれません。現在、そのような事態は決して起こらなくなりました。ひとえに、証券取引所の公営化のおかげだと言えるでしょう。現在日本に5ヶ所存在する証券取引所は、すべて公営化され、国会の決めた予算に基づいて運営されています。というのも、昨今の情勢として、現在企業だけでなく、公共資本宗教団体、個人までも証券化、市場の原理にのっとってやりとりをしよう、という流れがあります。このモデルにおいて、日本は先進諸国に先駆けて、公的援助を行いました。この進化形が、公営化であり、処理システムが大きく増補された理由です。」

「次に皆さんに見ていただく場所は、かつて株価や為替が一覧表示されていた、この取引所のシンボルともいえる……」



「はぁ」

やはり高校生相手というのは疲れる、が、証券に興味を持ってくれる学徒が多いというのは、素直に喜んでもいいと思う。

自分が証券取引所に足を踏み入れたのも高校生のときだったな、としばし感慨にふけるが、すぐに上司の怒号が飛んできた。こんな仕事場でも、選んだのは他でもない自分だから、文句も言っていられない。

そもそも、現在証券取引所で働ける、という待遇自体が非常に稀有極まりない事なので、そんなことを言ったら罰が当たる。それに、何より誇りだから働いているのだ。誇りだから、ここで働けるし、それで妻子も養える。


現在、この世の事象ほぼすべてが証券化され、市場原理の元に、売買がなされている。

企業や団体はもちろん、自然現象や個人も、全て証券化されている。

私も証券化されているし、妻も証券化されている。が、成人以前の人間は特別保護対象になっている。言い方は悪いが、「監理ポスト」のようなものだ。

この証券化のメリットは、労働者側に関しては特に明確で、この証券化によって、労働者待遇が平均して4割

増しになった、というデータをうちの調査部がはじき出していた。


今日は、早く帰れそうだ。と思った矢先に上司が何か不穏なものを持ってきた。CDにしても1枚には入らないような紙の資料だ。そんな馬鹿な。


1時間足らずであの量の資料がまとめられるとは思わなかった。急いで帰れば、いつもよりは早く帰れそうだ。と思った刹那――。

――私の視界は零になった。横たわる、体躯




「教えてください!先生の見立てでは、どうなんですか、主人は、主人は治るんでしょう?」

医師は、途切れ途切れに言葉をつなげていった。

「あくまで統計的な話でしかない、と断りますが……おそらく、1年ほどで全体に病巣が回るでしょう」

私は、言葉を失った。

これまで、仕事も家庭も両立できたと思っていた私が、よりによって自分の事を何も見ていなかったとは。

「なにか、なにか手立ては無いんですか」

「もちろん方法が無いわけではありません。しかし、どれも成功例があまり報告されておらず……」

「しかしそれで、これが治るんですね?」

私は、動揺し固まる妻をさしおいて、割り込んだ。

「えぇ、成功例も、少ないというだけで無いと言う訳ではありませんが……」

「受けましょう。この状態は、もちろん家族にだって会社にだって迷惑ですが、なにより自分に納得がいかないんです」

自分でも驚くほど、饒舌になっていた。

「……あなた」

妻が、憂いに満ちたまなざしを向ける。

「大丈夫だ。先生も出来るといってるんだ、俺は絶対完治してみせる。それに、いざというときは、保険で、後を頼む。あいつらを養ってくれ」

「あなたが言うなら……わかりました」

この日から、私の入院が始まった。



「これは、本当に奇跡だ、私も長い間医者をやっているが――」

私を見るたびに、担当医師はこうこぼす。聞き飽きるほどだ。

手術と長い治療生活によって、私の体は発病前と何ら変わらないまでに根治できていた。

「いや、本当に大したもんだ。これなら、検査のみをして、職場復帰もできる」

私の妻はそのセリフを聞くたびに、担当医師に深深と頭を下げる。


しかし、そのような予定調和が、いきなり崩された。


ガチャ

一人の男が乱暴に戸を開け、押し入ってきた。

検察のものだ。話は手短に終わる」

「……何の用ですか」

私は、意識せずとも、落ち着き払って応対をした。仕事の件についても遵法を第一に考えていたし、そもそも私は長期間入院していたのだ。

「……あなたの奥さんに令状が出ている」

しばらく意味が理解できなかった。妻と令状がどうしても意味を持った語句として繋がらなかった。

「あなたの株に、時間外で大量に、法外な買い注文が入っていたんですよ」

「……しかし、もともと私の株は妻がほとんど持っていたはず……」

「それが、ほとんど売り払われていたんです。9月16日付で」

私が、施術を正式に決めた日だ。

「おそらく、あなたの奥さんは、この手術が大きなリスクになると考え、あなたの株をいったん全て売り払った」

「今回は、病気の完治が可能になったということで、また奥さんが大量に買い戻そうとしたんでしょう」

私は、言葉を続けた。

「しかし、それがなぜこんな逮捕、という話になっているんだ、話はうちで付ける」

「それが、そうもいかないんでね」

検察官は、ごく事務的に、小さく口を開いて言い放つ。

インサイダー取引容疑だ」


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